問題提起の背景と緊急性
本提言は、全国監理団体協会(全監協)の会長・新井和男氏が、政府の進める「育成就労制度」に対し、その施行がもたらすであろう深刻な影響について警鐘を鳴らし、見直しを求めるものです。
技能実習制度に代わるこの新制度案は、過酷な規制、少子高齢化と人手不足の実態を顧みず、そして何より日本で働こうとする外国人材の意欲を削ぐ内容であると強く批判しています。
中小零細企業のみなさん、小さな会社にとって最後の人材獲得手段である外国人採用の道が閉ざされます!

日本行きを希望して応募してきた若者たち -フィリピンにて-
育成就労制度に盛り込まれる
過酷な規制
育成就労制度案には、中小零細企業の存立基盤を揺るがしかねない恐ろしい問題が内包されています。要点を3つ詳述します。
問題点1:外国人材を遠ざける「日本語資格取得要件」
制度案の要件:日本で働きたいと希望する外国人に、就労前までに日本語能力A1相当以上(N5相当)の合格、または認定日本語教育機関での講習受講を義務づけています。特定技能者になるには、更にレベルの高い日本語資格の取得が必要です。
現場の懸念:ただでさえ母国では仕事がなく苦労している外国人に、過分な労力・費用・時間を強いるのはなぜですか。円安・物価高・重い公的負担の三重苦で彼らの日本での手取りが減っているのに、その上に難しい語学資格を求めるとは、周辺諸国との人材獲得競争に自ら敗北するに等しい悪手です。

JLPT受験者の属性別割合
グラフを見て分かるように、日本語検定試験を受験するのは「学生」「研究者」「高等教育を受けた選ばれた人たち」がほとんどです。そういう人たちがトライしても、N5の合格率は50%ほど、N4の合格率は40%前後です。
(グラフと数字の出典:独立行政法人国際交流基金、公益財団法人日本国際教育支援協会ホームページ)
我々の訴え:日本語資格取得要件は撤廃すべきです。現場では、言語の壁よりも労働意欲と実務能力を重視します。我々が求める人材は、高度な語学力をもった人ではなくて、どんな仕事にも一生懸命取り組む働き手です。語学力はなくてもまじめに仕事に打ち込む人はいっぱいいます。日本語資格取得を要件にしたら、むしろ勤勉で誠実な働き手を失ってしまいます。
問題点2:中小零細企業を絶望させる過剰な負担
- 日本人と同等給与の義務化:専門技能がある程度身についている外国人(例えば特定技能)であれば「日本人と同等の給与」は分かります。これから仕事も何もかも覚える来日したての外国人に「日本人と同等の給与」はありですか?
- 就労期間に応じた昇給:まるで社会主義国のようなルールです。とうに滅んだ年功序列を外国人に限り復活ですか。
- 仕事時間を削って資格教育?:我々はすでに、技能検定資格取得のために仕事時間を削って受検勉強させています。その上さらに100時間の日本語勉強時間を捻出しろと言われています。その費用も企業持ちです。
- 増え続ける費用負担:給料も上がります。相手国によってはまともな寮費もとれません。講習料や手数料・受検料の名目で、次から次に政府系団体にお金が吸い上げられています。分野別協議会加入費などが上積みされるともいいます。
試算される負担増:育成就労者一人当たり 約100万円以上
(労働時間の削減による生産性低下、社会保険料増、諸経費増を含むと更に増加するでしょう)
現場の懸念:いまでも実習生一人受け入れるのに週刊誌一冊分の書類が必要です。工場・現場・畑から帰宅して、慣れない事務作業に四苦八苦しています。書類の量を減らしてください。これ以上の義務や役所対応を追加しないでください
我々の訴え:中小零細企業は人が命です。しかし、損得勘定抜きに人材確保にお金は掛けられません。人がいなければ業績は落ち、儲からなければ後継者は出てきません。
問題点3:監理団体の機能不全を招く規模制限と業務量増大
現状の役割:監理団体(協同組合や商工会)は、外国人実習生の管理・教育・問題解決のノウハウを駆使し、行政や派遣国との橋渡し役として中小零細企業を支えてきました。
行政主導によるブラック化:育成就労制度では、監理団体の規模を大幅に制限しつつ、業務量は増大させることになっています。
非現実的な監理制限
- 職員1人で8社までの監理に限る
- 職員1人で育成就労者40人社までの監理に限る
あれもやれこれもやれそれもやれ…
- 定期監査・臨時監査・訪問指導・定期報告
- 行政への連絡・報告の徹底化
- 外国人の転職の支援
- 日本語教育・技能の習得支援
- 中小零細企業に寄り添うのではなく厳正な中立性
- 外部監査人設置義務化
- 監査にあたれる役職員の制限
我々の訴え:団体の職員数によって監理できる企業数と外国人数を制限することに断固反対です。職員一人につき8社・40人。この人数に制限すると画期的に外国人管理が改善されるという科学的な証拠はありますか? 数的制限は意味がないばかりでなく、監理団体難民(制限数からあぶれた企業や外国人)が大量に発生するのは火を見るよりあきらかです。
現場の声
入国前に実習生に日本語資格をとらせるって本気ですか? どうやって受験勉強させるのですか、何十万人もの受験者の試験はどうやって実施するのですか、費用は誰がもつのですか。そもそも外国語を勉強する余裕(時間とお金と頭の良さ)のある人は、日本へ来て汚れ仕事や力仕事をやろうと思いませんよ。実態をまるで分かっていない。むしろ、勤勉で献身的な労働者を失うことになります。
規制強化で実習生は確実に減るでしょうね。実習生が減って一番困るのは日本の労働者です。実習生がやっている仕事を自分たちでやらなければならないのですから。我々の生業は誰もすすんでやりたがらない仕事です。日本人の若者は鼻も引っかけません。ますます担い手がいなくなります。日本語教育だとか新たな義務だとか書類だとか、我々を廃業に追い込みたいのですか。
20年以上監理団体と一緒にフィリピン人を育ててきた者です。一人の失踪者もなく、大きな事故もなく、会社も発展しました。先日監理団体の人から『2年後に育成就労が始まったら人数制限をされるので、御社とはお付き合いできなくなるかもしれない』と言われました。どうしてよいか分かりません。何の問題もなく、会社・実習生・監理団体で共生しているのに、それを分断する理由を教えてください。
現場の声を届けよう
この無慈悲な法律を止めるには、もはや政治の力しかありません。
中小零細企業のみなさん、地元選出の議員に陳情してください。
いま我々が感じている恐怖は決して中小零細企業の被害妄想ではありません。ある行政書士は、外国人保護と受け入れ手続きに熱中するあまり、企業を潰してしまったのでは本末転倒だと言っています。この法律が施行されたら、日本は外国人労働者に選ばれない国になるだろうと国際協力機構(JICA)のレポートにも書かれています。
育成就労制度の問題点を追及する有志連合
全国監理団体協会(全監協)
ご意見送付先:kyx04112@nifty.com
中小零細企業の人材確保の道を守り、後継者に夢と希望を与えるために、発言と行動に打って出ましょう。
行政や有識者・マスコミに気後れする必要はありません。我々には表現し請願する権利が憲法で保証されています。